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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1930号 判決

控訴人

武智基教

武智興産株式会社

右代表者代表取締役

武智基教

右両名訴訟代理人弁護士

櫛田寛一

大櫛和雄

被控訴人

メリルリンチ・ジャパン・インコーポレーテッド

右日本における代表者

池田利明

右訴訟代理人弁護士

田中徹

平野高志

竹之下義弘

住田和子

主文

一  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人武智基教(以下「控訴人武智」という。)に対し、五三三三万〇九一三円及びうち四八四八万二六四八円に対する平成二年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(控訴人武智は、当審において請求を減縮した。)

被控訴人は、控訴人武智興産株式会社(以下「控訴会社」という。)に対し、六七〇万一〇六三円及びうち六〇九万一八七五円に対する平成二年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(控訴会社は、当審において請求を減縮した。)

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁九行目から同一〇行目にかけて「損害賠償を請求した事案である。」とあるのを、次のとおり改める。

「損害賠償として、控訴人武智につき、ワラント購入代金一億六一六〇万八八二五円の三割に相当する四八四八万二六四八円に弁護士費用としてその一割を加算した五三三三万〇九一三円及びうち右四八四八万二六四八円に対する最終の代金支払い日である平成二年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、控訴会社につき、ワラント購入代金二〇三〇万六二五〇円の三割に相当する六〇九万一八七五円に弁護士費用としてその一割を加算した六七〇万一〇六三円及びうち右六〇九万一八七五円に対する代金支払い日より後である平成二年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めたものである。」

2  同三頁末行の「松下電器産業株式会社に勤務」とあるのを「松下電器産業株式会社に二八年間勤務して退職」と改める。

3  同九頁八行目の次に行を改めて、次のとおり付加し、同九行目冒頭の「1」を「2」と、同二五頁末行冒頭の「2」を「3」と、同二六頁一〇行目冒頭の「3」を「4」とそれぞれ改める。

「1 ワラントの危険性と本件ワラント取引の状況

(控訴人ら)

(一) ワラントの危険性

(1) ワラント取引は、新株引受権という権利の売買であるから、ワラント取引においては、ワラント価格、株価のほか、予め設定された行使価格、行使期間、ワラントの単価、一株当たりのワラント買いコストを知ることが不可欠である。

ワラントは、株式ではなく、行使期間に行使価格で株式を買付ける権利であるから、ワラント代金は、売買代金というよりはオプション(選択)手数料である。ワラント取引は、オプション取引として、株価が目論見の価格以上に上がった場合にワラントを行使して行使価格で新株を買い、目論見の価格よりも下がった場合にはワラントを行使せず、損をワラント買付代金分に限定するという選択的な取引であるから、ワラントの買付と売付には高度の専門的な判断が必要である。

(2) ワラントは、株式の信用取引のリスクをヘッジする(両賭けして損を防ぐ)ために利用されている。すなわち株式の信用取引において株価が予想外の動きをして信用取引に損が生じることに対する備えとしてワラント取引をするのである。

ワラント取引は、欧州では、オプション取引でありヘッジ取引を伴うことから、機関投資家しか扱わないものである。

ワラントは、日本では、一般に周知でなく、内容、仕組みが複雑で難解かつ投機性が高く、流通市場の整備が皆無で価格の形成が不透明であり、公正な価格が期待できない相対取引であり、期限が到来すると無価値になる危険があり、売買のタイミングが難しいものである。

(3) 外貨建ワラントは、証券会社の引受業務による利益と都合のみで発行され、有価証券届出書が届け出されず、目論見書が交付されない。

(4) パンフレット『ワラント投資の仕組みと投資妙味』(乙一五)は、セールスカタログで販売促進用のものであって、ワラントの有利性の説明に重点が置かれ危険性の説明としては不十分なものである。

(二) 本件ワラント取引の経過

(1) 控訴人武智は、平成元年七月末ころ(以下特に断らない限り平成元年を指す。)、松下電器産業株式会社の下請企業を経営していた松尾敬から被控訴人名古屋支店の営業社員黒田寛泰を紹介する旨いわれて了解した。

黒田は、八月二日に控訴人武智に対し、電話でリンナイ転換社債の買付を勧誘し、控訴人武智はその買付を承諾し、代金一〇〇万円を被控訴人名古屋支店に送金した。

控訴人武智は、八月七日に初めて黒田に会って被控訴人のアメリカにおける会社の実状の説明を聞き、次いで黒田から日本銀行の出資証券の買付の勧誘を受け、被控訴人の会社案内のパンフレットと日本銀行の決算書類のようなものを貰った。

黒田は、八月一一日に控訴会社の事務所を訪問して日銀出資証券の買付を重ねて勧め、控訴人武智は八月一八日に日銀出資証券を買付けることにした。

黒田は、控訴人武智に対し、八月一八日以前にワラント取引の勧誘をしたことがなく、ワラントの値動きの特徴、行使期間、ワラントの危険性などの説明をしておらず、ワラントの取引説明書等を交付していない。

(2) 黒田は、八月二一日に電話で控訴人武智に対し、日銀出資証券の値動きの説明をした上、『本田技研という会社があります。非常に業績がよくて、いい会社です。ワラントというものがあって、株のようなものです。買って下さい。』と述べて、本田技研ワラントの買付を初めて勧誘した。黒田の電話でのワラントの勧誘は僅か一、二分であり、ワラントの仕組みや危険性の説明はなかった。控訴人武智は、被控訴人と黒田を信じ込んでいたこともあって、前記松尾や友人と相談したりすることもなく、この勧誘に応じて買付を承諾した。

ところが、黒田は、控訴人武智にワラント取引を勧誘する前の八月一五日にアサヒビールワラント、八月一六日に本田技研ワラントの英文注文伝票(乙二二の1、二三の1)を勝手に作成していた。

(3) 控訴人武智は、八月二一日より後に黒田から外国証券取引口座設定約諾書(乙二)と外国新株引受権証券の取引に関する確認書(乙三)の用紙の送付を受け、黒田に電話で問い合わせた上、署名して返送したが、このときにもワラントの危険性の説明を受けていないし、ワラントのパンフレット(乙一五)やワラントの取引説明書(乙一六)の送付を受けていない。

(4) 黒田は、八月二二日に控訴人武智に対し、先に買付けたリンナイ転換社債の売付を勧めた。控訴人武智は、黒田からアサヒビールのワラントの買付を『非常に業績のよい会社です。』などといって勧められたため、リンナイ転換社債の売付で得た金員でアサヒビールワラントを買付けることにした。

(5) 控訴人らは、この後黒田からいくつかの株式取引を勧誘されて、これに応じて株式の取引をしていたが、更に、黒田の勧誘により控訴会社が一一月一〇日に三菱石油ワラントを、一一月二一日に三菱商事ワラントを買付け、控訴人武智が一二月一三日に日本鉱業ワラントの買付をした。

黒田は、一二月一九日に、『三菱石油も三菱商事もこれから更に上がっていくので、今会社でいったん儲けていただいて、更に上がるから個人で買って下さい。』『会社から個人に変えるのは非常にテクニックを要する。これは私だからできる。』などといって勧誘した。控訴人らは、これに従い、三菱石油と三菱商事のワラントを控訴会社として売付け、控訴人武智として買付けたが、ワラント取引が相対取引であって控訴人らの売付が証券会社である被控訴人の損を現実化させることを考えると、被控訴人はこれによりワラント保有のリスクを回避し、売付と買付の利鞘を稼いだということができるのである。

(6) 黒田は、一二月二九日、『三越という会社は将来有望です。年明けに更に状況がよくなるので年内に買って下さい。』といって勧誘したので、控訴会社は三越ワラントを買付けた。

(7) 黒田は、控訴人武智に対し、平成二年一月三〇日に三菱電機ワラントを『業績がいいから上がります。』といって買付を勧誘し、同年二月九日に大信販ワラントの買付を勧誘して、控訴人武智は黒田を信頼してこれらを買付けた。」

4  同四頁二行目の末尾に続けて、次のとおり付加する。

「控訴人武智は、このとき、現物株の取引に関する知識も十分ではなく、自分から銘柄の選定、買付、売付の時期を判断できるようなものではなく、証券会社の担当者の助言のとおり取引をしていたにすぎない。そして、本件は外貨建ワラント取引であるから、控訴人武智に右株式取引の経験があることをもってワラント取引の適合性があると判断する根拠とすることはできない。」

5  同一四頁三行目から同一五頁六行目までを次のとおり改める。

「(4)(控訴人らがワラントを行使するコスト)

控訴人武智は、次のとおり、本件ワラント取引でワラント代合計一億六一六〇万八八二五円を支払ったが、ワラントを行使して新株を引き受ける場合には更に新株代金合計五億三八二〇万円を必要とする。また、控訴会社は、次のとおり、本件ワラント取引でワラント代金二〇三〇万六二五〇円を支払ったが、ワラントを行使して新株を引き受ける場合には更に新株代金七一九七万五〇〇〇円を必要とする。

〔控訴人武智〕

銘柄  ワラント代金 新株代金

本田技研 17,937,500円 65,650,000円

アサヒビール 14,495,000円 71,700,000円

三菱商事 19,787,625円 66,525,000円

三菱石油 56,844,450円

128,900,000円

三菱電機 35,875,000円

132,500,000円

大信販 16,669,250円 72,925,000円

以上合計  161,608,825円

538,200,000円

〔控訴会社〕

銘柄  ワラント代金 新株代金

三越  20,306,250円  71,975,000円

したがって、控訴人らをあわせると、ワラント代金及び新株代金で七億九二〇九万〇〇七五円のコストを要するのである。

被控訴人は、本件ワラント取引により、控訴人らに七億九二〇九万〇〇七五円という過大な取引に挑戦させたということになる。

控訴人らは、ワラント代金一億八一九一万五〇七五円を借り入れて目一杯に無理して捻出したが、七億九二〇九万〇〇七五円という取引は、控訴人らの資金力を越えており、適合性に反する取引である。」

6  同一六頁七行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「ワラントは、社債と分離されており、転換社債のように社債償還期限まで保有してもよいし、株価上昇時に株式に転換してもよいという商品ではなく、株式と異なり行使期間付きであるからそのまま保有することができず、譲渡するか行使するか決断せざるをえず、放置すれば紙くずになること、高い株価水準のときに、株価が更に上昇して行くことを前提として発行されていること、株価が下落すれば挽回することができないこと、値動きが激しく、値動きに論理性、合理性がないこと、オプション取引であることによる投資判断の難しさ、ヘッジ取引として利用する場合の専門性から個人向きの投資商品ではないことを詳しく説明するべきである。」

7  同二三頁一行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「ワラント取引においては、ワラントを行使して株式を取得することはまれであり、ほとんどの場合ワラントを転売して決済するのが通常である。したがって、控訴人ら主張の新株代金を考慮すべきでない。」

8  同二六頁二行目から同九行目までを次のとおり改める。

「(一) 控訴人武智分

(1)  ワラント購入代金

一億六一六〇万八八二五円

右のうち本訴請求分

四八四八万二六四八円

(2)  弁護士費用四八四万八二六五円

(3)  合計 五三三三万〇九一三円

(二) 控訴会社分

(1)  ワラント購入代金

二〇三〇万六二五〇円

右のうち本訴請求分

六〇九万一八七五円

(2)  弁護士費用 六〇万九一八八円

(3)  合計 六七〇万一〇六三円」

第三  争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二八頁三行目の「平成元年七月二一日から」の前に「控訴人武智は、平成元年に右会社を退職し、」を付加する。

2  同三〇頁九行目の冒頭に「(」を、同末行の末尾に「)」を付加する。

3  同三七頁八行目の「確認書」の前に「外国新株引受権証券の取引に関する」を付加する。

4  同三七頁一二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人らは、右約諾書(乙二)及び確認書(乙三)は八月二一日より後に黒田から送られてきたと主張する。しかし、右乙号各証の作成日付はいずれも八月一五日となっており、日付について虚偽の記載をする必要もないところからして控訴人らの右主張は理由がない。」

5  同三八頁四行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(控訴人らは、黒田がワラント取引の勧誘を始めたのは、日銀出資証券の取引が成立した八月一八日より後の八月二一日からであると主張する。しかし、証券会社の営業社員の顧客に対する取引の勧誘は、一種類或いは一つの銘柄の取引に集中して行われるとは限られず、むしろ取引開始の早い機会に多種類或いは多銘柄の取引情報を伝えて関心を集めるようにすることが自然であり、黒田が八月上旬から控訴人武智に対し、一般には必ずしもよく知られていない日銀出資証券の買付の勧誘をしながら、注目を集めつつあった外貨建ワラントについて、人気の出ていた本田技研ワラントを勧誘し、アサヒビールワラントの発行が予定されていたのでその情報を伝え、ワラントの仕組みや危険性について説明することが不自然とはいえず、原審証人黒田の証言は信用できるものである。)」

6  同三八頁五行目の冒頭に「(」を、同三九頁一行目の末尾に「)」を、同三九頁二行目の冒頭に「(」を、同四〇頁二行目の末尾に「)」を、同四一頁一〇行目の末尾に「)」をそれぞれ付加する。

7  同三九頁一行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(控訴人らは、ワラントの取引説明書(乙一六)を受取っていないと主張し、原審における控訴人武智の供述はこれに沿うものであるが、右確認書(乙三)によれば、控訴人武智はワラントの取引説明書を受領したことを確認する乙三号証に署名押印しているのであるから、控訴人武智の右供述は信用することができない。)」

8  同四〇頁七行目の冒頭に次のとおり付加する。

「(控訴人らは、黒田が控訴人武智にワラント取引を勧誘する前の八月一五日にアサヒビールワラント、八月一六日に本田技研ワラントの英文注文伝票(乙二二の1、二三の1)を勝手に作成していると主張し、」

9  同四二頁二行目の「確認書」の前に「外国新株引受権証券の取引に関する」を付加する。

10  同五三頁一二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人らは、控訴人武智が現物株の取引に関する知識も十分ではなく、ナショナル証券における株式の現物取引は、自分から銘柄の選定、買付、売付の時期を判断できるようなものではなく、証券会社の担当者の助言のとおり取引をしていたにすぎないと主張する。しかし、先にみたとおり、控訴人武智は、右株式取引の当時、一流会社に勤務し、課長にもなり、価格内外格差の調査、輸出等海外営業の業務を担当していたのであるから、右主張は理由がない。」

11  同五六頁九行目の次に行を改めて、次のとおり付加し、同一〇行目の冒頭の「(3)」とあるのを「(4)」と改める。

「(3)  控訴人らは、ワラント取引がオプション取引であり、ヘッジ取引を伴うから投資の専門家がする取弓であって、控訴人らには適合しないと主張する。しかし、ワラント取引がオプション取引であるからといって、ヘッジ取引を伴うようにすべきであるとはいえず、オプション取引として損は最高限度でも投資金額全額に限定されているから個人投資家に適合しないものではない。ワラント取引は、有価証券取引の一種であり、株価の動き及び株価変動の期待や見込を中心にして変動するワラントの買付価格と売付価格との差により利益を得ることを目的として行われるものであり、ワラント取引特有の危険性を含んでいるとしても、右のとおり損は最高限度でも投資金額全額に限定されているから、控訴人らが黒田の説明及び黒田から交付を受けたワラントの取引説明書(乙一六)によりワラント取引の危険性の概要を知って取引をする以上は、控訴人らに適合しないものであるということはできない。」

12  同五六頁一二行目から同五七頁一行目までを次のとおり改める。

「控訴人らは、控訴人らが買付けた本件ワラント代金が一億八一九一万五〇七五円であるところ、本件ワラントを行使して新株を買い付けるには更に六億一〇一七万五〇〇〇円を必要とし、総額七億九二〇九万〇〇七五円の取引であるから控訴人らの資金力を越えており、適合性に反すると主張する。しかし、控訴人らは、本件ワラントを売付けて利益を得ることを考え、かつ本件以外に買付けたワラントは行使期間を待たずに売付けているのであって、ワラントを行使して新株を買付けることを考えていなかったから、適合性の判断に当たり新株代金を考慮することは相当でない。」

13  同五九頁二行目の次に行を改めて、次のとおり付加し、同三行目の冒頭の「(3)」とあるのを「(4)」と改める。

「(3) 控訴人らは、ワラント取引が証券会社との相対取引で価格の形成が不透明で公正な価格が期待できないことを説明すべきであると主張する。しかし、証券会社との相対取引でなされる有価証券の取引はワラント取引のみではないし、外貨建ワラントは被控訴人のみが取り扱っていたものではなく、多数の証券会社が取り扱っていたから相対取引であるからといって直ちに公正な価格の形成が期待できないものではない。ワラント取引が証券会社との相対取引であることは前記ワラントの取引説明書(乙一六)に記載されているのであり、これ以上に相対取引であることによる価格形成の問題点がある旨の説明をする義務があるとは解されないから、右主張は理由がない。」

14  同五九頁八行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(5) 控訴人らは、ワラントは、社債と分離されており、転換社債のように社債償還期限まで保有してもよいし、株価上昇時に株式に転換してもよいという商品ではなく、株式と異なり行使期間付きであるからそのまま保有することができず、譲渡するか行使するか決断せざるをえず、放置すれば紙くずになること、高い株価水準のときに、株価が更に上昇して行くことを前提として発行されていること、株価が下落すれば挽回することができないこと、値動きが激しく、値動きに論理性、合理性がないこと、オプション取引であることによる投資判断の難しさ、ヘッジ取引として利用する場合の専門性から個人向きの投資商品ではないことを詳しく説明するべきであると主張する。

しかし、先に判断したとおり、ワラント取引がオプション取引であるから個人投資家に適合しないとの点は認めることができす、また、その余の点は、控訴人武智に対する黒田の説明及び控訴人武智に交付されたワラントの取引説明書(乙一六)によって説明済みである。したがって、控訴人らの右主張は理由がない。

(6)  以上みたとおり、控訴人武智は、ワラント取引の仕組み、ワラント取引のもつ投機性や危険性について理解し、みずからの責任と判断において取引するかどうかの意思決定をするだけの能力を十分有していたものと認められるのであって、被控訴人及び黒田の前記説明が本件ワラント取引の勧誘において説明義務の履行に欠けるところがあったものということはできない。」

二  よって、右と同旨の原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 裁判官 横山光雄)

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